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東京高等裁判所 昭和48年(ラ)164号 決定

抗告人 宮沢清子(仮名)

右法定代理人親権者父 宮沢陽一(仮名)

右法定代理人親権者母 宮沢愛子(仮名)

主文

原決定を取消す。

抗告人の名「清子」を「清美」と改名することを許可する。

理由

抗告人は原審判を取消し、抗告人の抗告は理由があるとの決定を求め、その理由として抗告人はその近所に住む宮沢清子(抗告人より約一ヵ月先に出生)と同姓同名で、抗告人の父は右のものが生れたばかりなのでそのことを知らず、抗告人に清子と名づけたものであるが今般幼稚園に入所が決まつたが、先生から名前を呼ばれてもそれが自分の名前か否か判らず迷つて困るばかりでなく、郵便物の誤配その他があつて、何かと生活上の不便があるので、改名許可を求めると述べた。

よつて按ずるに名は氏と一体をなして個人の同一性を識別する重要な要素の一つであつて、みだりにこれが変更を許すときは、いたずらに社会生活において混乱を惹起する結果を招来するおそれが多分に存するところから、戸籍法一〇七条はその二項において「正当な事由」がある場合にのみ、その変更を許しているものと解するのが相当である。

そうだとすると、諸般の事情からしてもつともだと思われる改名の必要があり、反面それによつて予想される社会生活における混乱の程度がさして大きくないと認められるような場合には、右にいう正当な事由があるものと解して差支えないというべきであろう。

そこで本件の場合について考えるに、記録によれば抗告人は○村大字○○△△△番地に居住する昭和三九年三月二六日生の女児であるが、近隣約二〇〇メートルをおいて同村大字○○△△△番地に同年二月二六日生の同姓同名(但し抗告人はきよこと読み、後者はせいこと読むが、漢字による表示は全く同一である)の女児が居住していること、抗告人の命名にあたつてはその両親は近所に同姓同名の一ヵ月違いの女児があることは先方の出生がわずか一ヵ月前でかつ幼児であつたことから気付かなかつたこと、その後役場から来る書類などもまぎらわしく、今後幼稚園、小学校等と進んでも両人は一緒であるから、いろいろ不便不都合なことも予想され、両親は今のうちに同じ呼称を他の文字で表現すべく「清美」と改名することを切に希望していること、抗告人が幼少であつてまだ社会生活における他との接触の度合いは比較的少なくその名の上に築かれた社会生活関係は複雑であるともいえないことが認められる。以上の事実に即して考えれば本件においてこれが改名を許さないことは妥当でないであろう。もつとも抗告人はきよこ、先方はせいこと呼ぶ以上呼称の上での混乱はなく、二人とも女児であつて将来婚姻によつて氏をかえる可能性が大であることも考えられるが、これらはまだ右結論を左右すべき決定的な事情とするには足りない。

これを要するに本件の場合、改名を許すについて「正当な事由」があるものというべきである。

しからば、これと異り抗告人の申立を却下した原決定は違法であるから、これを取消し、抗告人の申立を許容すべきである。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 園部逸夫)

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